2025/05/14 19:26
”とんかつ、という食い物がある。元は西洋料理のカツレツなのはだれもが心得ている。だが、とんかつはいまや完全な日本料理である。洋皿にのったとんかつを、ナイフとフォークで食べるより、はしで食ったほうがうまいのを、日本人なら皆知っている。そして、スープやパンよりも、赤出しにご飯のほうがよりすばらしいコーディネーションなのも。”
[参照・抜粋: MEN'S CLAB BOOKS - 1 ブレザー (ブレザー物語・構造学・着こなしのすべて) , くろすとしゆき監修, 婦人画報社 ]
とんかつの話で口火を切り。
論は60年代アイビーと80年代アイビーの変遷と成熟、とんでアイビーの主軸たるブレザーとその起源になるクラブユニフォームの来歴を経て、生地やディテール、手入れと映画などを絡めた雑学へと筆を進めていく。
昭和59年に刷られた書き物だから半世紀とは言わないもの、流行り物を扱う生業としてはすこし古かろう論調。
けれど。
洋服屋の教科書の一角として。
アレコレと口伝に近い形で耳に馴染んだ論法は、洋服屋の在り様の一つとして心安い。
この冊子に目をとおすのは初めてだったんですけどね。
要所、要所に覚えがあるのはそういう事なんでしょう。
とんかつの食べ方や付け合わせにしても、ブレザーのフィッティングやスタイリングにしても。
時流による発見と浸透の繰り返しで、ざっくりと日本人における定石が呈示されるに至るのだけども。
その枠を”日本人”から”個人”にまで落とし込み、自分のスタイルへ踏襲するのも洋服の魅力なら。
それらの過程において。
定石外しは個性を引き立てるセンスとして、洋服を着てカッコをつけたい人間には必須ともいえる。
そのカッコ良い外し方。
先人の経験によるセオリーとして流派のように散積されていてるものを、現代っ子らしくSNSやAIの集積知で広大な分散範囲から、自分に合う外し方を拾うんであれば。
一旦諸々は棚に上げて。
好きを手がかりに、いまから自分のスタイルを積み上げていくのも洋服の楽しみ方じゃなかろうか。


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とんかつからブレザーの話を振っときながらの、コートの話。
くろす氏の言葉で、「ひと昔前の男たちは、真夏以外はコートを着たものだが」というのがある。
発された時期を鑑みるに確実に50年以上前、ひょっとしたら大正時代の丸善紳士なる方々を指しているのかもしれないのだけれども。
一番外に重ねて羽織る洋服だからこそ。
真冬に着るメルトンのオーバーコートからギャバ地のスプリングコート、梅雨時分のゴム引きのレインコート、ダスターコートなども含め、時期や用途に合わせるための種々多様なコートでワードローブの容量の多くを占めていたという、心強い言。
真夏に着るサマーコートが外されてるのは日本の気候ゆえかしらん。
けれども。
梅雨にゴム引きのレインコートを着るカッコ良さに気概と賞賛を強く感じるのが現代の事情であれば、優先されるべきは他にあるかもと。
また同氏は、主にメンテナンスの面でアイデア先行の新素材は留意されたしと慎重な様子も見せていて、これは特殊な後加工や新素材が群雄割拠した時流と街のクリーニング店の事情を受けてのことかなと。
それらの助言はその通りと、今においても翻す様なものではないのだけれども。
特殊な加工技術をアイデアでコートの形にしたカッコいい洋服があるんです。
薄い生地に奥行きのあるグラデーション。
目を凝らすと何色かを重ねたチェック柄は染める色ごとに糊で土手を作り染料を流し染め重ねていく、注染といって主に手拭いにおこなう手染めの手法で染めた生地。
何層にも色が重なっているところを見るに、何度も糊をのせて染料を流し、糊を洗い流して乾かした後にまた糊をのせるこの工程を何度も繰り返したのかなと。
本来は1巾の長さ90cmくらいの生地を染める手法で染め上げた、特殊な大判の生地のコート。
普通はコートにしない生地で作ったこの服は、見栄えの渋さと濃厚さに同居する異質な着心地の軽さと柔らかさ。
一言でシーチング地のアトリエコートと並べられない、風采を放ちます。
大きな折り返しのパッチポケットと、目を惹く黒柿のウッド釦。
黒の杢が生地の柄と同化しながらも、奥行きのある柄の中で確かな存在感を放つのが面白い。
使い込むことで釦の艶が増し飴茶を纏う様になった頃、全体の経年がとても楽しみです。
生地の薄さや染めの特殊さから、取り扱いはフランクにゴリゴリ洗濯機でとはいかないものの。
手拭いを濯ぐ感じで手洗いは可能。
汗がのるこれからのシーズ。
半袖や短パンで往来が埋まる中。
袖をたくし上げて颯爽と翻してもらいたい洋服です。

シーズンレスなワークコートとしては、大判を活かしてスモックの上に引っ掛けることも可能。
漁師の仕事着の上にコートと短靴というのも、奇異なスタイリングだけれども。
ぐったりと使い込まれ日常着として、無造作に重ねて着るということが存外様になるもんです。
コートを着ることが、何やら定石を外すに等しいように思われているこの頃。
ならばこそ。
アイデアに任せて、久しぶりにコートに袖を通してみませんか。
カツレツがとんかつになるよりも。
早く、広く、良いモノだと周知されることを請け負います。
だって。
コートこそがカッコ良く、クロークに一番多く備えておくべき洋服であると。
洋服好きのDNAには既に刷り込まれているのだから。
その実を、ぜひ店頭で試してみてください。
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RÜCKWÄRTS
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